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LSE ニューズレター (2012年1月21日発行) -- Winny裁判報告会を終えて

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LSE ニューズレター (2012年1月21日発行)
-- Winny裁判報告会を終えて
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【目次】

1.金子さん支援者向け報告会を終えて

2.会費及び更新費用が無料となりました

3.LSEの今後の活動方針とその背景

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1.金子さん支援者向け報告会を終えて
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去る1月9日、『金子さん支援者のための報告会』を開催致しました。

報告者及び参加者の合計は11名となりました。
また、金子基金の通帳に記された、陰ながら支えていただいた、
多くの方々にも感謝を述べられていました。

理事長新井より挨拶に続き、金子氏より御礼の挨拶
そして、壇弁護士より詳しい経緯の説明がありました。

■これまでの振り返り
偏ったマスコミ報道の問題や、控訴審での検察側のポート0の話、
控訴審証人尋問におけるACCSアンケートの問題点などの
振り返りをしました。

■上告
検察は、高裁が法令の重大な解釈の誤りをしたという
判例違背を理由に上告をしました。
しかし、検察官が主張する裁判例は、全く別の事件であったとの
解説がありました。

■最高裁
最高裁の多数意見は、Winnyは価値中立的であるというものでありました。
しかし、例外的ではない範囲が侵害をする場合に幇助となるという見解となり、
高裁判決の基準である、幇助について限定する見解は否定されました。

『例外的と言えない範囲のものが、
同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合』
というのはとても曖昧な基準です。
この基準だと、本来金子さんは有罪になるのではないか、とも疑問符がつきます。
これについては、最高裁としては次はないぞ、という意志ではないかとも読めます。

■今後の活動
今後は、刑事補償と刑事訴訟費用補償請求をしていきます。
また、本件の正しい知識の徹底をしていくことも重要です。
第一に、Winnyを使うことを許容した判決ではないということ。
第二に、Winnyをアップデートすることも危険であるということ。
これはつまり、警察が『このソフトによって著作権侵害をする行為は、
例外的でないことを知っていました』という調書を取ることを狙ってくる可能性がある、
ということだからです。

■その他参加者からの話題
報告会会場で参加者から上がってきた話題をご紹介します。

本当の法律上の戦いで無罪になる例は今までないという点で画期的であった。

彼ログや図書館事件などを抱きあわせたロビイングはどうかという話題で、
総務省は、それなりにしようとしているが、
経産省は統一感がない対応であるとの声がありました。

・技術者倫理を教える教科書が、萎縮的な記述になってしまっている。
「幇助に注意しましょう」といったことだけ書いてある状況。

・とにかく、日本企業がコンテンツ産業の革新をしていけない点が大問題である
ニコニコ動画などはEMBEDタグがあるからストリーミング扱いであるとして
ネゴシエートしているから成り立っている。

・包括許諾規定が独禁法じゃないかという点での問題がある。
さらに、動画販売サービスを開発運営する立場からの報告として
JASRACと関係のない作品についても3%払えと言われている点の疑問。

■懇親会余談
プログラムを本にして著作物とすれば表現の自由の問題に持ち込める?
・詩的なプログラムってなんだ?
Winnyのソースは他人が読むことを考えていないから見にくいんです
・金子さんはゲーム方面でしたよね元々
・金子さんの次の作品が見たい(ちょっとまだ難しいらしい)
などの声がありました。

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2.会費及び更新費用が無料となりました
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LSEでは、金子さんの無罪確定を機に理事会を開催し、
体制維持の確認を行いました。
また、会員の皆様の会費を無料とする事案が可決されました。

LSE設立当初、私達には第二第三のWinny事件が起きかねないのではないか
という危機意識がありました。
そこで、会費収入および相談事業等による収入の確保によって、
金子さん基金とは別の資金をプールできるような活動を目指しておりました。

しかし、設立より約7年、懸念していたような事態は少なかったこともあり、
それに合わせて、事業性についても改めて見直すこととなりました。
そして、結論としましては、何かあったら迅速に動けるような体制を維持しつつ、
ソフトウェア技術者にむけて、より一層の啓蒙活動を進めていくということを
確認致しました。

なお、会費無料化につきましては、会員向けサービスの活用状況と、
事務局設置や更新の事務コストも勘案し、決定しました。

■入会及び更新の方法
会員希望の皆様、および更新希望の皆様には
メールにて、お名前、住所、その他情報をいただきまして
会員として登録させて頂きます。
ソフトウェア技術と法律に関わる問題に興味のある方でしたら
どなたでも登録できますので、ぜひこの機会にご登録ください。
http://www.lse.or.jp/apply

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3.LSEの今後の活動方針とその背景
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LSEでは、ソフトウェア技術者及びソフトウェア産業全体の悪影響を避けるべく、
ソフトウェア技術者に向けて、
『困ったときはLSE、取り調べでは弁護人を指名』というようなスローガンを掲げ、
思いがけない事態に対しての心構えを
事前に持ってもらうことが肝要であることを確認をしました。

前述したように、ソフトウェア技術と法律のギャップから発生するトラブルは、
まだまだ無くなることはありません。
そのような社会状況から、ソフトウェア技術者と弁護士が連携した
LSEの持つネットワークは今後も維持・継続していかなければなりません。

従いまして、私たちは今後も、ソフトウェア技術者に振りかかる
不当な強制捜査、取り調べなどの問題が発生した際に、
迅速にフォローできるような体制を維持し続けます。

■これまでの反省点
しかし一方、これまでのLSEの活動は金子さん支援以外では低調で、
反省点は多くあります。
その中でも最大のものは、『岡崎市立中央図書館事件』があります。
この事件に対しまして、発生当初、LSEでは理事長見解を出しています。
そこでは『当事者の方から相談があれば受けたい』と締めくくられております。
http://www.lse.or.jp/news/y20100812

つまり、現状では、容疑をかけられてしまった方からの、
弁護人指名やLSEへの相談等のアクションがなければ
実際のフォロー活動が困難であるという限界があります。

もし、強制捜査の時点でLSEに相談をしていただければ、
適切な弁護士を紹介できましたし、
あるいは少なくとも取り調べにおいて弁護人を指名すれば、
弁護士間のネットワークによって、
サイバー法に詳しい弁護士にまで話が行くことも考えられました。

こうした事件で特徴的なのは、容疑をかけられてしまった側の
危機感が薄い点にあります。
警察側の理屈による取り調べや、一方的な調書作成を認めてしまい、
『自分は正しいことをやっているから、事実を示せばわかってもらえるだろう』
などと考えてしまいがちです。
実際、Winny事件の場合、強制捜査を受けた金子さんも、
なんの疑問も持たず、警察都合の作文による調書を作成されてしまいました。

しかし皆様お分かりのように、ソフトウェア技術者の常識は、
警察には全く通用しません。このように、何も心構えがないと、
金子さんのように莫大な時間と資金、労力を費やすことになるか、
あるいは図書館事件のように一方的な捜査及び逮捕となってしまう恐れがあります。

今後、私たちは、このようなトラブルを起こさないようにしなければなりません。
つまり、全てのソフトウェア技術者の方々に万一の自体が発生した場合
LSEのもつソフトウェア技術者と弁護士とのネットワークを
活用できるよう、周知していくことが極めて重要です。

■個人を超えた社会的意義
もちろんこの活動は、不当な容疑をかけられてしまった
当事者のための活動ではありますが、
それだけではなく、ソフトウェア産業および社会全体のあり方にも
大きな影響を与えかねないという意識を持ってのものでもあります

問題のある捜査手法や、検察による一方的な主張を通してしまうような
事例を作らせてしまうことは、、
日本のソフトウェア産業、ソフトウェアを用いた表現者にとって、
大きな損失となってしまう恐れがあります。
これは、とても個人の影響だけでは収まらない性質の問題です。

LSEでは、こうした問題に対して、継続して取り組む活動を続けてまいります。
皆様のご支援、ご協力のほど、お願い申し上げます。

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■LSE会員募集中 http://www.lse.or.jp/apply
■支援のお願い http://www.lse.or.jp/support
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lseinfo@lse.or.jp までお願いします。

■編集:LSEメールマガジン発行部
■発行:ソフトウェア技術者連盟(League for Software Engineers)
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